「偶然の旅行者」ってなんだか題名がピンとこないなあと思っていたら、題名は主人公の職業でもある「ビジネスなどで嫌でも旅行をしなければならない人を対象にしたサバイバルガイド」のことだったんですね。(原題はaccidental tourist)その本の表紙が後ろの背もたれに羽の生えた居心地のよさそうな椅子というところにちょっと笑ってしまった。自分の習慣を変えずに違う環境でもそれを持ち運びたい人というのをよく表しているよなあ。
そんな彼の書くガイドブックのごときウイリアム・ハート扮する主人公。ひとり息子を亡くした悲しみを主人公の妻は彼に癒してもらいたいのに、彼はいつもの反応のまま。でも表現しないから彼が平気というわけではない。むしろもっと内心は悲しみでどうしようもないくらいなのにそれが妻には伝わらない。ウイリアム・ハートがその微妙な心模様を良く表現していて切なくなりました。私はどうもこういう「控えられた感情が思いっきり見ている人に伝わってくる」という表現にとことん弱いようです。その主人公を助けるのが一風変わったジーナ・デイビス扮するペットの調教師。彼女には彼の苦しみが分かるのですね〜。
トーンの縦糸はシリアスなラブロマンス系なんだけど、横糸にウイリアム・ハートのこれまた一風変わった妹と、彼の同僚のコミカルなロマンスが入ったり、とても良い映画だったなあ。本の感じでいえば「シッピング・ニュース」といった味わいかな。人の温かさに触れられる映画です。