主人公の敏子、夫に突然死なれて今まで主婦で守られてきた生活から一変、その夫に愛人が発覚する。子どもたちは勝手に遺産相続の件を進めている・・・。今まで使う事なく鈍っていた「自分で考え、自分の意志で行動する」ことをひとりの女性として取り戻していく再生の過程の物語です。一気に読み終えたけどかなり桐野夏生的じゃない小説だった。きっとこれから大量にでてくる「団塊の世代」リタイア組にはとても身につまされる「リアル・ワールド」なんだろうなあと想像しつつ。
この小説でしみじみ思うこと2つ。ひとつは、「人間は年齢を重ねたとしても感情を飼いならすことはできない」ということ。それが恋愛でも嫉妬でも。出てくる登場人物の感情の動きが非常にビビッドで、特に子育ても一段落して時間に余裕のある登場人物たちは、若い頃よりもいっそう人間関係のあれこれに悩みつつ、憤りつつ日を過ごしている。
もうひとつは「家族は永遠に家族だけど、でも常に求心力の強いユニットとしては存在しない」ということ。多分私が今抱えている「家族」が一番強い絆を必要とする頂点だとすれば、これから敏子の年齢になるに従って、ゆるやかに家族のユニットがほぐれていくのだろうなあと。その意識が家族ひとりひとりで温度差が違うといろいろと失望したりするんだろう。
まだこの年代には突入していないけれど、何年か後には渦中に飲み込まれるのは絶対なんだもんなあ。いろいろ考えさせられる小説でした。