舞台は倉敷美術館から始まる。過去はフランスで新進気鋭の美術研究家、今は岡山の倉敷美術館で監視員を勤めるアラフォーの主人公が、MoMAのチーフキュレーターから「ルソー」の貸し出しの交渉窓口になるようオファーを受け回想から始まる。ミステリアスな筋書きにピカソやアポリネールや過去の有名アーティストの逸話も絡み、ぐいぐい最後まで引っ張る内容。MoMAもテートギャラリーも訪れたことがある場所での雰囲気を自分の脳裏に思い出しながら、そういう体験を思い出しながらの読書ってこんな楽しいんだなと。
キーとなる画家のルソーは私も好きで、倉敷美術館ではエル・グレコと並んで好きな絵がのんびりとした平原で牛が草を食む絵だった。文中の中心的なキーとなる「絵の真贋」はその絵から情熱や新しいインスピレーションを感動として感じられるかということに依るには深く納得。見慣れたものじゃなく新しい、自分の触れたことのないものから与えられる感動。そんなのを求めて私はこれからも自分の知らない作家に美術館に「会いに行く」だろう。言葉を媒介とせずに直接感じる感動の素晴らしさは、子どもたちには知ってほしいものだけど。
読み終えた次の日、直木賞候補になっていろんなメディアに露出が増えていた。その前に図書館から回ってきて良かった。というか買うかも。